異物混入給食問題について自分の食品製造経験から考えてみる
不味くて冷たくて頻繁に異物が入ってる給食を誰が食べますか?
神奈川県大磯町の二つの町立中学校で提供されている給食で、食べ残しが相次いでいることが20日、分かった。
多い日は半分以上が食べられていなかった。生徒から「冷たい」「味が薄い」といった不満が出ているだけでなく、虫などが入っていたとの報告が多数あり、町は異物混入が食べ残しの一因とみている。
町によると、給食の提供は保護者らの要望で昨年1月から開始し、弁当形式で、製造と配送は同じ民間業者に委託している。
当初から「食べ残しが多い」との指摘があった。
町が今年5~7月の食べ残しの割合(残食率)を調べたところ、平均は26・0%で、最も多い日で55・3%に上った。環境省調査の平均6・9%を大きく上回った
。異物混入は昨年1月以降、毛髪や虫、金属片など計84件。明らかに給食を製造する工場内での混入が認められるものは15件。
衛生管理上、おかずは原則、冷ましてからの配送が義務付けられているが、町は20日から温かい汁物を提供して改善を図るほか、希望する生徒には弁当の持参を認めた。
委託業者には衛生管理の徹底を指導、対策を進める。
(産経 ニュースより引用)
連日ニュースで取り上げられているこの問題について食品工場で30余年勤務した私の経験からの考えを述べてみたいと思います。
この件でまず問題となるのは下記の3点ではないかと思います。
①育ち盛りで食欲旺盛な生徒達が多数給食を食べずに残している事は体の発育に悪影響を及ぼすのではないか?
②十分に食事を取っていない空腹状態では授業に集中が欠けて学力低下に繋がりはしないか?
③頻繁に異物が混入している様子で内容が、体毛、ハエ等の虫、木片、プラスチック片等色々で業者へクレームを付けても一向に改善され無い様だがこのままでは生徒たちに食中毒、口内を切る、歯が折れる等の健康被害が出るのではないか?
①②については温かい汁物を加えるだけで果たして生徒達の食べ残しが減るのだろうか?
味が薄い、美味しくない、異物が気になって箸が進まない様ですし異物を発見すると気持ちが悪くなるでしょう。衛生面で冷ましてからの配送になるのは分かりますが他の給食業者が作った給食の食べ残し率との比較も必要ではないのでしょうか?
③は生徒達に健康被害が及んでからでは遅いでしょう。口に入る物は最悪命の危険に晒される可能性も有りますので早急に改善が必要だと思います。
学校側の見解は、契約期間が後1年半残っている為、他の業者へ代えるのは難しいという事の様ですが、クレームを付け改善を求めても現実良くなっていないので有れば生徒達が気の毒に思います。
法律的な事も絡んでくるのでしょうからその辺りに素人の私が口を挟むのは失礼かもしれませんが。
給食が冷めている事については衛生面で冷ましてから配送しなければならないそうですが、それならば冷めても美味しい献立を考えるしかないでしょう。
テレビ局からマイクを向けられた生徒の一人がシチュ―が冷めてドロドロで美味しくないと応えていましたが、こういうメニューは献立から外すか料理の専門家に冷めても美味しく食べられる秘訣を聞いてみるのもいいかもしれません。
冷ましてから配送しなければならないのは他の業者も同じ条件なのでしょうから調理法、献立などを聞いてみる、視察させてもらうのも有効かもしれません。(企業秘密で教えてくれないかもしれないですが)
私が給食を食べた事が有るのは小学校の時だけですが、校内に給食室が有り調理専門のスタッフが生徒是全員分の食事を作り各教室分に振り分け各クラスの給食委員が取り分けた物を各生徒が受け取りに行き自分の机で食べるシステムでした。
担任の教師も教室で生徒達と同じ給食を食べていました。担任によっては食べ残しを許さず食べるまで監視されていたようですが私の担任は食べ残しも認めていました。
そういえば昔は牛乳に混ぜて飲む「ミルメーク」という粉末が有りましたがこれは今も出てるのででしょうか?コ―ヒ―味とかフルーツ味とか有って個人的にはこれが出る日は楽しみでした。(笑)
冬場には弁当をランチジャーに詰めて登校し暖かい食事を食べていました。
混入異物については何種類の異物があったのか定かでは有りませんが、現在公表されている物は、体毛、ハエ等の虫、木片、プラスチック片です。
一つづつ考えて行きましょうか。
まず、体毛についてですが、この給食工場での作業着がどんなだったか詳しい事は分かりませんが業種から考えて当然手袋、帽子は着用していたのではないかと思われます。
保健所のチエックは無ければおかしいですしこれが着用されてなければ業務認可はおりないはずですから。
ただ、帽子からの落毛は起こるはずですからその下にヘアーネットを着用させていたのか?がまず1点、
作業着は常に長袖を着用させていたのか?が2点目、手袋は破損し食品へ混入する可能性が有りますので破損がないかのチエックを行っていたのか?が3点目、
落毛は必ず起こるので定期的なクリーンローラー掛けを行っていたのか?が4点目です。体毛混入についてはまずこの4点を調べて行われていなかったので有れば実施する事です。
次にハエですが、ハエがこの工場で混入したので有れば外部からハエが侵入出来る経路が有るはずですのでそこを改善する事です。
外部から入室する箇所には扉を2重3重にする、ハエが侵入しにくくなるように内圧を高くする事(室内から室内へ向けた空気の流れを作るいわゆる陽圧状態)が必要です。
これは外部からのほこりや雑菌の侵入を防ぐ効果も有ります。
木片については室内に木の素材の物を置かない様にする事たとえば机、イス等、金属製の物に変更する事。そしたら金属異物が混入する可能性が出てくる訳ですが、これは金属検出器を設置し弁当全てを通せば発見出来ます。
箸も金属製の物を使えば良い訳です。まずは作業場へ木製の物を無くし持ち込ませないようにすれば防げます。そしてプラスチックですが、これもプラスチックの物を金属製に変更していけば最悪混入は防げると思います。
多分、給食を詰める容器はプラスチック製でしょう。テレビで給食の食べ残しが映った時にそう思いました。
そうで有れば使い捨て容器かもしれませんが、これも金属製にして洗って再使用すればコスト削減にもなりますしプラスチック異物混入も防げますのでダブルの効果が有ります。要は弁当箱を洗って使うという概念です。
虫については防虫、防鼠の対策を講じれば良いのです。作業場内にトラップを仕掛け、捕獲が有れば侵入経路を調査しまずはそこを防ぐ対策が必要です。
虫やハエは電撃殺虫器も効果的ですし、鼠は鼠が嫌がる周波数の音波を出す機器、電磁波を出す機器等も有ります。
そして、1番大事なのは作業者の衛生教育でしょう。
異物混入を減らす為にはまずは現場作業者の意識改革です。
作業着の下へ来ている衣類にポケットが有りそこに物を入れていると落下し混入する可能性も出てきますし、
作業着に汚れや異物が付着していればそこから混入する可能性も生まれますので管理者はその辺のチエックも必要ですし作業着のクリーニングも会社が行わなければいけないでしょう。
体毛の混入については食べる人の物が混入している可能性も0では有りませんが、私がいた会社では改善を重ねていった結果、体毛のクレームは確実に減っていましたので実施した方が良いと思います。
ちなみに私が勤務していた食品工場で出社から職場へ入るまでの流れをお伝えします。
出社したら従業員はまず作業着に着替える為のロッカーへ向かいます。
そして衣服を脱いだらまず会社支給のヘアーブラシで髪にブラッシングし抜け毛を床へ落とします。
そしてインナーへクリーンローラーを掛け体毛、異物を除去します。そして作業着を着てヘアーネットを被り帽子を被り、頭から足まで全身へクリーンローラーを掛け体毛、異物を除去します。
帽子の裾は長い帯状になっていて毛髪が落毛しても体毛が体外へ落ちない様になっています。上着、ズボンの裾は2重になっていて、上着の裾は帯状に長くズボンの中へ収めて着用します。これも体毛が体外へ落ちない仕様です。
財布、食券、煙草、ライター、携帯電話等は会社指定のポーチへ入れます。(ポーチへ入れても良い物も限られていますし一時は携帯も不可でした)
このポーチは休憩室付近に設置されたロッカーへ収めてから職場へ向かいますので製造現場への持ち込みは禁止です。
その後衛生準備室へ向かい、手洗い→洗浄液を付ける→手洗いする→ジェットタオルで手を乾かす→アルコール走毒液を両手に付けすりこむ→エアーシャワー室へ入る。
水、洗浄液、アルコール消毒液は手をかざせば自動で出ますしこれらを全て行わないと次のエアーシャワー室への入口扉が開かない仕組みになっています。
爪の仲が汚れていれば専用のブラシで落せるよう設置されています。(メンテナンスを行うと爪の中が汚れる事が有ります)
エアーシャワー室では15秒間上部、左右からエアーが噴出しますのでその間従業員は両手を上げ体を回転させて回り作業着に付着しているかもしれない異物、体毛、汚れ等を落します。
この時同時に足元では靴底洗浄機が作動し水を含んだブラシが動き靴底の汚れを除去します。
15秒後に出口のドアが開き退出すると床には吸水マットが有りますのでそこに足を乗せると靴底の水分が吸い取られます。(靴底が濡れたままだと汚れや異物が付着するのでそれを防ぐ為です)
そこから各自の仕事場へと向かいまたクリーンローラー掛けを行います。休憩や食事後も同じ流れですし、勿論仕事中は帽子やヘアーネットを脱ぐ事は厳禁です。
休憩室、食堂、会議室等へ行く時はエアーシャワー室は通らず別のドアから出ます。
作業でゴム手袋を使用する職場では休憩後は手袋は新しい物に交換です(使い捨て手袋です)休憩に行く前は手袋に破損がないか必ず第3者チエックを行います。
もし、破損が有り欠損部分が有れば即ラインを止め欠損部分を探します。みつからなければ混入が無いと保障出来ない部分の製品は廃棄処分となります。
現場には何箇所か金属検出器が設置されており作業前。2時間おき、作業後に指定のテストピースを流し正常に作動しているかチエックを行います。
この際、検出器が作動しても排出ゲートの開閉タイミングが合っていないと金属異物が除去出来ませんのでテストピースがきちんと除去出来ているかテストピースを落しライン外へ排出される事も確認します。
テストピースは、鉄、非鉄(ステンレス、アルミ等)の2種類を使用し確認します。
防虫、防鼠等については業者と年間契約し対策を講じて貰っています。
毎週各職場の職制が集まりクレームミーティングを実施し、その週にあがって来ているクレームについて確認し、対策を討議します。
月に1回は防虫、防鼠を依頼している業者にもこのミーティングに参加しいてもらい報告を受け質疑応答、効果があがっていないところは共に対策立案します。
エアーシャワー、靴底洗浄機、吸水マットについてはピンとこない部分もおありかと思いますし、見せても差し支えないと思いますのでので画像を添付します。
エアーシャワー室
靴底洗浄機
吸水マット
こういう感じの物です。
私は某食品メーカーの工場へ(スナック菓子)勤務し、管理者も勤めましたが異物混入を含めクレーム削減にはやはり苦労しました。
改善の為には、原因を調査し対策を立案し対策実行、結果を確認し改善されて無ければ再びこのサイクルを回す、いわゆるPDCA(プラン、ドウ、チエック、アクション)を繰り返すしか有りません。
思った様な結果が出ないと言う事は真因が掴めていない、対策が有効でないから、あるいはその両方だからです。
会社の規模はさまざまですし、大企業なら出来ても中小企業、零細企業では改善に掛けられるコストもそんなにはないかもしれませんが、口に入る物は最悪命を奪いますので出来る範囲でも改善していかなければならないと思います。
食品業界では2000年に発生した「雪印集団食中毒事件」以来厳しい目が消費者から向けられる様になりました。
その後も食品擬装事件が相次ぎ発生しましたが、これらもお客様の見る目が厳しくなった事で大きく取り上げられました。
数年前には焼き肉居酒屋が生レバーの提供で食中毒を出し、以後レバ刺しが食べられなくなりました。
私もレバ刺し大好きでしたのでガッカリでした。ほとんどの飲食店はキチンとした衛生管理が出来ていたからそれまでこんな事件は発生していなかったのでしょうが、ゴクゴク1部の店のずさんな管理でこういう事態になった事は非常に残念です。
今回の事件で1番気の毒なのは食べざかりの中学生達が十分な食事が得られずお腹をすかせて授業、クラブ活動に臨んでいるのではないかという事です。
現在、共働き家庭が多いですし、片親の家庭も有るでしょう。交代勤務で働いている方もいらっしゃるでしょうし弁当制にしたくても難しい事情の家庭も有るでしょう。
毎日パンやコンビニ弁当ばかりを食べるようでは子供の栄養も心配です。
この件が今後どういう風に改善していくのかこれからも見守りたいと思います。
良くなっていけば幸いです。